台北のコミュニティースペース、古風小白屋

「Ephemeral Urbanism(つかの間のアーバニズム)」という概念が、近年注目を集めている。永続性よりも、その時代に必要なものを軽やかにつくる街のあり方を指す。必要な時に、必要なリソースを持ち寄り、つくってしまう古風小白屋(グフェンシャウバイウ)の活動は、スピーディーで、しなやか。時代の変化に柔軟に対応し、その姿をアップデートしていける、”Ephemeral(エフェメラル)”な場づくりの良い例だ。

Writer,Photographer / Mariko Sugita

Mariko Sugita

杉田 真理子

デンマークオーフス大学で都市社会学専攻、その後ブリュッセル自由大学大学院にて、Urban Studies修士号取得。株式会社ロフトワークで空間デザイン・まちづくり系プロジェクトのプロデュースとマーケティングを経験したのち、2018年5月から北米へ拠点を移動し、フリーへ。都市に関する取材執筆、調査、翻訳、企画、メディア運用など、編集を軸にした活動を行う。

フットワーク軽く、
実験を繰り返すための場

道路へのシャッターが二方向に開け放たれた、半屋外の小さな空間。台北・台電大楼駅から徒歩5分ほどの十字路の角に、「古風小白屋」はある。

20平米ほどの決して大きくはない空間は、ほとんどが作業台で占領され、電子ドリル、ハンマー、ノコギリ、トランスフォーマー、ヤスリなどの工具が、床から天井まで所狭しと並べられている。手作り感のある三角形の照明が、天井からブラブラと釣り下がっているその下で、数人の年配男性がボソボソと意見をかわしながら、作業をしていた。
古風小白屋は、日用品を中心に、さまざまなものを自分たちで修繕できるスペース。近所の住民たちは、扇風機やデスクランプなど、何かが壊れたら、ここ、古風小白屋に持ってくる。ボランティアの”近所のおじさん”たちが、ここにある工具を使って、修理をしてくれるから。使い方さえ分かれば、ここにある工具を無料で借りて、自分で修理することも可能だ。

ショップでもなければ、廃棄物処理所でもない。2009年にオランダで始まった運動「リペアカフェ」とも親和性がある古風小白屋には、必要な時に、必要なリソースを持ち寄り、必要な分だけ、作ってしまう、場づくりに関するヒントがつまっていた。

バラす、組み替える。
「修理」を通して循環経済を考える

古風小白屋は、住民参加のコミュニティ活動に端を発し、2014年に台北・師大地区にオープンした。背景にあるのは、循環経済という考え方。「買って、古くなれば捨てる」という21世紀の大量生産・大量消費型ライフスタイルを批判し、再利用を前提とした持続可能な社会を提案している。

「家電製品や家具が壊れたとき、高いお金を払ってプロに修理をしてもらうか、捨てるか、そのふたつの選択肢しかないのは、変だなと思ったんです。」

訪問時、話を聞くことができたボランティアの女性は、古風小白屋設立の背景をこう語った。実際、修理をするより、新品を購入する方が安いことも多いのが現実。しかし、古風小白屋では、「古いものにはストーリーがある」という考えから、あえて捨てずに古いものに新しい息を吹き込むことを、モットーとしている。また、単に修理をするだけでなく、パーツを組み替えて新しいものをつくる、アップサイクルも行っている。

「毎週土曜日には、修理に詳しいボランティアを集り、誰でも飛び込みでものを持ち込めるようにしています。日曜日には近所の住民を招き、一緒に工具の使い方を学んだり、木工をはじめとしたものづくりの基礎を学びます。他の曜日には石鹸づくりのワークショップを開催したりと、毎日何かしらの活動が、ここで行われているんです。」
 案内され建物の裏にまわると、敷地内にある屋外スペースで、20人ほどの老若男女が集って何かをつくっていた。この日は、台湾・宜蘭市から訪ねてきた子供たちを中心に、廃油を使った石鹸づくりのワークショップを行っているとのこと。古風小白屋には、地域住民はもちろん、興味がある人は誰でも気軽に立ち寄ることができる。

”近所のおじさんたち”を
巻き込んだコミュニティづくり

古風小白屋では、修理だけでなく、コミュニティを巻き込むことを大切にしている。

「ここに出入りする人たちは皆、好きで出入りしています。雇用関係ではなく、ボランティアとしての参加ですね。活動を通して、この地域をどうしていきたいか、コミュニティの意見も吸い上げるようにしています」
実際、 古風小白屋に置かれている工具の多くは、地域住民が家庭に眠っていたものを持ち寄ったもの。”修理”にスポットをあてることで、手を動かすことが好きな退職後の年配男性が、コミュニティ活動に参加し始めるようになり、今までは女性が中心であったコミュニティ活動の場に、多様性が生まれるようになった。

「工具を使いたければ無料で借りれますし、修理も基本的に無料です。その代わり、他の工具を提供したり、何かしらのスキルがあれば、そのスキルをシェアしてもらいます。コミュニティへ還元できることを、お金ではない形で追求してもらいたいという意図です。こうして、どんどんコミュニティの輪が広がっていくんです。」

工具を借りたい場合は、借りたいものの写真を撮影し、コミュニティメンバーのためのLINEグループに投稿するだけというシンプルなシステムで、コミュニティの信頼により運営が成り立っている。

家電製品や家具が壊れたとき、高いお金を払ってプロに修理をしてもらうか、捨てるか、そのふたつの選択肢しかないのは、変だなと思ったんです。

ボランティアの女性

第二拠点は「食」をテーマに

必要な時に、必要なリソースを持ち寄り、
必要な分だけ、作ってしまう。

すべてのものには寿命があり、生まれては、消えていく。この寿命がきたときに、すぐに捨ててしまうのではなく、次に活かしたり、生まれ変わらせるという循環社会の精神は、「修理」という行為だけでなく、古風小白屋の場づくりや、コミュニティ運営のあり方にも生きている。

古風小白屋の成功は、コミュニティのためのスペースの増加にもつながった。現在、行政が援助を行い、同地域内で複数の拠点づくりが進行している。

古風小白屋から徒歩5分ほどに位置する第二拠点は、「食」がテーマ。今回は工具ではなく、キッチンと大きなダイニングテーブルを中心に、地域コミュニティが持ち込んだ調理用具が並べられている。共に食事をつくり、地域住民みんなで食卓を囲む。
コップや花瓶は、古い酒瓶やワインボトルを、古風小白屋にあるガラス用のノコギリで切り、ヤスリをかけたもの。手作りのデスクランプも、アップサイクルされたガラス瓶でつくりった。ここでも、「自分たちでつくる」というモットーが活きている。

以前は汚いバックヤードだったという裏庭は、コミュニティメンバーの手で植物が植えられ、緑豊かなオアシスに。ボランティアの年配男性の1人がアプリで操作すると、所々に仕掛けられていたホースから、霧が出てきた。複数人で管理する場所だからこそ、水やりなどはデジタル化している。もちろん、その仕組みをつくり、実行したのも、ボランティアで集まるコミュニティメンバー。「必要だったから、作っちゃった」本人たちは控えめに笑う。
 大型資本によって作られた、完成されすぎた場ではない。緩やかで、仮設的でもある場がさまざまな人の交流を生み、知恵の交換や新しい試みをテストする運動体となっている。私たちにいま必要なのは、こうした”フットワークの軽い”、仮設的で、プロトタイプ的な場づくりなのではないか。そのような場所だからこそ、時代の変化にも柔軟でしなやかな強さを持った場づくりができるのではないか。古風小白屋は、そんな問いを私たちに投げかけてくれる。

必要だったから、作っちゃった。

ボランティアで集まるコミュニティメンバー